効かす突きの原理

2017/08/05


効かせる突きの本質はなんだろうか。
突きの威力を数値化するのは実は大変難しい。


良く、何百kgとか何トンというような表現を聞くことがあるが、これはスタティック(静的)な測度であってパンチ力を表現するには適さない。
物理量で言えば、運動量(質量✕速度)あるいは運動エネルギー(質量✕速度の2乗)が思い浮かぶ。

運動量は直感的に理解し易い、同じ重さであればスピードの速いパンチが効くだろう、同じスピードであればでかい(重い)拳が効くだろうという考えだ。
拳の重さが一定であれば、スピードのあるパンチを出す努力が効かすパンチを持つ最も効率的な鍛え方ということになる。

しかし話はそう簡単ではない。
拳の質量は拳単独のものではない。

拳に繋がっている腕、あるいは肩、上半身その他の質量も関わってくる。
ヒットした瞬間、拳から体までが一体となれば質量は増えたことになる。

物理的な観点でみるとこの一体が実は曲者で、関節という中途半端な繋がりを持つ拳と体の一体は重心一点で単純化した運動量や運動エネルギーでは正確に論じる事はできない。
伝統系のような審判規則では、実際に当てて効かせるという行為は反則になるのでもっぱら相手より速く拳を目標位置に運ぶという事が技術上の目的となる。

この場合、拳(を含めた一体化した体)の質量は問われないことになる。
フルコン(あるいは実戦)では当たっても効かなければ意味がないので、どうすれば破壊力のある実効的な突きになるかが問われるので、拳(を含めた一体化した体)の質量は重要な要素となる。

問題はこの一体化した(と考えられる)拳の質量は可変か否か、また可変であればどのような課題、問題点があるのかということになる。
これは、経験則とも一致するのであるが、感覚的に一体化した重い突き、と拳のみの軽い突きは空手家あるいはボクサーであれば打ち分ける事ができる。

重い突きを出すにはスピードは多少犠牲になるし、スピードに特化すれば重い突きではなくなる。
理想は、スピードは落とさず、当たった瞬間は体と一体化して質量が増すような突きが一番良いことになる。

定性的にはこれは正しいが、これの最適値を定量的に把握するのが実に難しい。
私の空手人生を技術面に絞って言えば、この「効かす」という事を如何にすれば定量的に捉えることができるか。

その定量値を増やすためにはどのような訓練、心構え、意識を持てば良いのか、これの探求だったと言える。
そしてこの探求はまだ現在進行形でもある。

現時点で言えば、仮に質量が一定の場合、効き具合を表す物理量は「運動量」ではなく「運動エネルギー」の方に近いだろうと思っている。
運動量がどれだけ大きくても打撃のスピードがある一定値を下回れば、人体には効かないからだ。たとえは1トンの鉄の塊でも秒速1cmのスローモーションのような打撃では全然効かない。こき重さであれば運動量はかなりのものである。

速度が倍になれは効き方は倍ではない。運動エネルギーのように速度が2倍になればエネルギーは4倍という定義の方がパンチの効き方としては感性に合致する。
ではスピードを倍にすれば重さは1/4で同じ効き目かは言うとこれはエネルギー的には等価であっても実感とはちょっと違う。

これくらいバンチ力の定義は難しいのだ。

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