ヒット カウンタ

平成15年夏期合宿の10人組手 その3

3人目の挑戦者は、マックだ。
マックが現空研に入会したのは5年前だ。

まだ明治大学の学生で、道場も手賀沼の脇にあるころだ。
途中資格試験の受験勉強で中断した期間はあるがコンスタントに稽古を続け着実に実力を上げてきた。

何でマックというあだ名がついたかというと、当時マクドナルドでアルバイトをしていて誰となくマックと呼ぶようにになっただけの話である。

彼は身長も168Cm体重も62Kgと最近の若者にしては小柄の部類である。
しかし剣道も3段の腕前で外観からは想像できない闘争心を持った若者だ。

現在は難関の不動産鑑定士の資格を狙って猛勉強中である。
とこれだけ聞けは模範的な好青年を想像するだろうが、実態はちょっと違う。

彼は通販フリークである。
話を聞くたびに新商品を買っている。

記憶術のテープだか本だかを買った話。これは効果があり明治大学に現役で合格できたのはこれのせいらしい。
一方、体に振りかけるだけで女性にもてるようになるフェロモンだかなんだかの香水を試した話は有名だ。

電車に乗る前にずっと使っていたらしいが何の効果も無かったことはあらためて聞くまでもない。
トレーニングに関するグッズもいろんな物を持っている。

フニャフニャ曲がる鉄板のようなものや、あっというまに又割できる機械の話とか。
どれを試してどれを使わなかったかは忘れたが、今回の合宿でもいろいろ皆に紹介していた。

とにかく皆で彼の話を聞くたびに爆笑の嵐が起こる。
その彼が今回10人組手にチャレンジすることになった。

1人目はAra君だ。
彼は合宿と娘さんの誕生日が重なってしまい、悩んだ末合宿を選択し今回の組手に挑んだ積極派だ。
180Cm近い長身で最近柔軟性も増してきた。
双方とも静かな滑りだしで組手が始まった。
お互い多分はじめての対戦だったこともあり激しい打ち合いにはならなかった。
マックはスタミナを温存する作戦なのかもしれない。

2人目はOri君だ。
彼は近々結婚するらしい。
決して大きな体ではないが性格は極めて前向きで、組手が好きでたまらないといった感じを受ける。
酒もかなり強い。
この組手はOri君が先手をとって先に先に攻撃を仕掛けてきた。
しかし、地力にまさるマックは確実にカウンターを決めて要所要所を抑え、Ori君を中に入らせない。
時折みせる顔面への突きも効果的だった。

3人目のNa君は現空研では白帯だが、大学の少林寺拳法部で初段を持つ実力者だ。
まだ、現空研方式の組手に慣れてないところはあるが、潜在的な力を感じさせる。
マックも積極的に打ち合いに応じ、スピード感あふれる組手になった。
互いに突き蹴りとも良い所に入ったが決定打とはならず時間切れとなった。

4人目は東大大学院に通うKa君だ。
子供のころ空手の経験があるらしく基本の飲み込みは大変早かった。
今回の組手では状況に応じて左構え、右構えをスイッチしたりする器用さを見せた。
しかし、総合力で勝るマックは一瞬の隙をつき前蹴りで技有りをとる。

5人目は強敵である。
Kawa君は白帯ではあるが、少林寺拳法の2段を持つ猛者だ。
しかも、入会以来皆勤に近い出席率を誇り、メインの世田谷だけでなく目黒、我孫子にも可能な限り出稽古に来ている。技の探究心も旺盛だ。
体格でもマックを上回り、スピード、重みともに十分な蹴りや突きを的確に叩き込んでいく。
マックも前にでて応戦するが、さすがに体力の消耗も重なり押され気味になるが何とか時間一杯を戦いきる。

6人目のTaさんは異色の存在だ。
50歳を過ぎて入会された。
本職はコンピュータを使ってイラストやデザインを行う会社の社長さんであり、また自らもアーティストである。
他流派の経験もありスピード感溢れる組手が特長だ。
特に飛び込んでの上段突きは威力がある。
マックも上段突きは得意なのだがさすがに蓄積した疲労でいつもの切れ味がない。
たたみかけるようなTaさんの攻撃に下段の蹴りでけん制するのが精一杯だ。
これも2分間のフルの戦いになった。

7人目はKoni初段だ。
Koni初段は大学4年生だ。
陸上の長距離をやっていただけにスタミナがあり、また天性の感の良さもある。
開始早々左右のスピードの乗った回し蹴りがマックを襲う。
また鋭い突きもバランスの良い上下のコンビネーションで繰り出される。
マックも必死でよけるが、ガードの腕は既に真っ赤に腫れ上がっている。
しかし、マックは一瞬でもKoni君の動きが止まるとすかさず下段蹴り、中段の突きで応戦し心は萎えていない。
この試合も何とか乗り切った。

8人目は「貴乃花」が相手をする予定だったが古傷のアバラを痛めたので急遽コジコジ初段が代役にたった。
アバラを痛めた「貴乃花」だが、もちろんニックネームだ。
インラインスケート2年連続日本チャンピオンのTom君だけど新ハンドルネームが「貴乃花」なのだ。
「貴乃花」は大手電気メーカーに勤めているが今度転勤でシンガポール支店に赴任することになり今回でしばらく休会することになったのだ。
抜群の運動神経とスケートで鍛えた筋力を併せ持つ才能豊かな若者であるが、ハードな稽古で怪我も多かった。
手首やあばらの骨折で稽古を休まなくてはならないときのくやしそうな顔が忘れられない。
今回でしばらく彼の姿を見ることができなくなるのは残念だ。
その「貴乃花」の見守るなかマックとコジコジの試合がはじまった。

最初コジコジが拳サポータをしないで組手を開始するハプニングがあったが、あらためてサポータを装着して試合が続行された。
圧倒的な体格差のもと、果敢に前に出るマックであったが、コジコジのリラックスした前蹴り、上段、中段の突きが容赦なくマックにそそがれる。
マックの両腕はすでに打撲で変色しているのが傍目にもわかるようになってきた。
回りの声援の中マックなんとか堪えることができた。

9人目は過酷な相手だった。
9人目の対戦相手Koi初段は大手証券会社のシステムエンジニアであるが、身長185Cm体重は100kgを超える巨漢である。総合格闘技系の他流派の道場にも通う熱血漢だ。
常にフルコンタクトで稽古しているので本人も言っているが寸止めが苦手だ。
こういう相手と後半戦わなければならないのが10人組手の最も厳しいところだ。
開始早々重い左右の回し蹴りがマックを襲う。
「負けるな」「ファイト」「自分からいけ」「攻めろ攻めろ」回りからマックへの声援が飛び交う。
しかし、Koi初段の重い回し蹴りの音がズシン、バシンと響き渡る。
マックは思うようにならない自分を叱咤するように最後まで前にでて左右の突きを続けた。
2分間のタフな組手がこうして終了した。

10人目は小林師範だ。
給水したマックは、ラストということもあり、開始早々から全力で小林師範にぶつかっていった。
試合はマックの右上段突きからはじまった。
前に前にでて、渾身の力を振り絞り上段の回し蹴りを放つ。
多少の攻撃にはたじろぐことなく前進を繰り返した。
彼の精神力がいささかも衰えてないことは接近したさい膝蹴りで反撃を試みた動作でわかった。
「攻めろ、攻めろ」「ラストだラストだ」「ガンバレ」ファイトファイト」
マックへの声援は道場中に響き渡った。
後半30秒はマックは一瞬も休むことなく攻め続けた。
やがて審判の「そこまで」の号令がかかる。
全力を出し尽くし、両手を足につけ一瞬がっくりとうなだれるマック。
試合終了で小林師範と審判の西浦師範がマックに近づき健闘をたたえる。
試合を終えて挨拶するマックにいつまでも拍手が続いた。

マック10人組手完遂。

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