ヒット カウンタ

グレーシー柔術考 その2

ヒクソン高田戦に関してのいろいろなご意見を頂きました。
空手関係の方からは、関節技に関しての見方が変わった(重要性の再認識)といった意見が多かったです。
やはり、ヒクソン恐るべし、といった空気が伝わってきます。

ある有名プロレスリング道場の方からは、「(高田選手は)体力、関節技、打撃技に関しては、間違いなくヒクソンに優っていますが、あの試合においては、気持ち(心)の点で、大きく負けていた」のではないか、といった指摘もありました。
「かつての大レスラー、ダニーホッジであれば、おそらくヒクソンの耳を引きちぎり、前歯を叩き折っていたでしょう。」とも言われていました。
プロレスラーの実力について、実践者からの言葉として重く響きます。

関節技という技術論と戦う心構え、つまり精神論の2つが、ヒクソンを語るキーワードになっているのです。
この技術論と精神論について考えるところを述べてみたいと思います。精神は自分の技術に対する信頼の上に築かれるという観点からです。

先日、アメリカで空手を教えておられる方からメールをいただきました。
この方はチャレンジ精神のおう盛な方で、いろんな格闘技の人と実戦的なスパーリングを行っている方です。

テッコン道や様々な流派の空手インストラクターと組手を行い、最後に元レスラーと手合わせをしたそうです。
そのとき強烈なタックルをくらい、何とか制したものの、ひざの靭帯を切ってしまったそうです。

この元レスラーがプロレスラーかどうかは分かりませんが、鍛えたレスラーのタックルのすさまじさは分かります。
しかし、こういった相手と外国で手合わせする空手家の度胸もすばらしい。

このメールを拝見して、先日のヒクソン高田戦の前に行われた、極真の黒沢浩樹選手とイゴール・メインダート選手の試合を思い出しました。
この試合もダイジェストを見ただけなので全容は分かりませんが、ひざに致命的な重傷をおった黒沢選手がそれでも果敢な下段蹴り攻撃を続け、相手をダウン寸前までおいつめた試合だったようです。
結果はレフェリーストップで黒沢選手はやぶれましたが、内容は勝ちといっても過言ではないでしょう。

空手家は、靭帯を傷めやすいと言いたいのではありません。これは相手が強かったからです。
ただ一般に空手家は、怪我をしてもあきらめず戦いを続行し、ズタズタになりながら勝つケースが少なからずある、ことは事実です。

これを精神力と言う人もいます。
でも、多くの格闘技の中で空手をやった人だけ精神力が強いのでしょうか。

公平に考えて、これは不自然です。
ただ、一ついえるのは空手には伝統的に一撃必殺という言葉というか信念があり、これがはたして実際にそうであるかないかは別として空手家の心のなかには深層心理としてインプットされていることは間違いありません。

つまりどんなに不利な、虫の息になっていても会心の一撃さえヒットさせればという思いです。
これが、最後まであきらめず、はたから見ると精神力の塊のように見えるゆえんではないかと思うのです。

つまり、最後の切り札を自分は持っているという信念です。
10年も20年も巻きわらを突いて石のようになった拳だこの意味は、それが実用的にどうかというより、この一撃必殺という信念というかバックボーンとしての象徴の意味のほうが大きいのではないかと思われるのです。

柔道でも相撲でもレスリングでも「このかたちにさえなれば」というものを持っている人はその人の総合的な実力以上の圧力を相手に与えると思います。

マウント(馬乗り)状態というのはヒクソンにとっての「このかたち」でしょう。
高田選手には、少なくとも対ヒクソン戦に関しては「このかたち」というものが希薄だったように思います。

もちろん高田選手の心の中には「このかたち」というものはあったかもしれません。
しかし、「このかたち」というものは、相手もこれを知ることによって威力が何倍にもなるのです。

空手でも強烈な前蹴りがある、とか、すごいハイキックを持っているという相手の「このかたち」を知っていると、こちらの動きは常にそれを警戒した動きになり、いきおい姿勢が守勢に回りがちになります。

結果としては相手に有利な展開となるという皮肉な結果を生むことが多いのです。
警戒するということは、それだけ相手が強いということを認めることであり、警戒される方にとってはそれだけで一段高いポジションに立てるのです。

「体力、関節技、打撃技に関しては、間違いなくヒクソンに優って」っていたとすれば、「このかたち」の選択肢は多かったわけですから、それを態度に出して欲しかった。

いや、逆に選択肢が多いゆえに迷いが出たのかもしれません。
突き、蹴りしかない空手家にとっては選択肢は一つですから、これにかけるしかない。しかしオールラウンドプレーヤーだったら、どれにするか迷ってしまう。

あくまで想像ですが、高田選手はあるいはこういう状態に陥っていたのかもしれません。
かえすがえす残念です。高田選手の再起を期待します。

先日リングスの前田選手が、テレビで、ヒクソングレーシーと対戦したい意向をアピールしました。
前田選手はプロレスラーであると同時に空手家でもあります。
「このかたち」という選択肢は高田選手以上かもしれません。

そこに期待と不安の両方があります。
もちろん全面的に応援することは言うまでもありません。

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