ヒット カウンタ

久々に見るガチンコの喧嘩(ライブドア対フジテレビ)


空手の話ではないが、今実業界で面白い事件が起こった。

ライブドアという会社がある。
最近はプロ野球参入で話題になったので堀江社長と共に知名度も上がり、業界の人でなくてもご存知の方は多いのではないか。

元々はウエブサービスなどをしていた小さなIT企業であるが、株式を増資して資金を調達してはM&Aなどで企業買収を繰り返し大きくなった会社である。
この会社のやり方はその善悪は別にしても型破りで大胆である。

特に株式市場を上手に使うやり方は日本の古い体質の会社にはないダイナミックなものを感ずる。
例えば、最近では1株を100株にするびっくりするような株式分割を行い、しかもその売買単位を1株にするといった非常識(?)きわまりない事を行った。

普通株の売買単位は1000株であり、500円の株を買うには最低でも50万位の金を用意しなければ買えない。
しかし、ライブドアの株は現在4〜500円であるが、1株でも売り買いできるので500円あれば1株買うことができるのだ。

小学生でも株を買うことができるようにするのが狙いだったそうだ。
株式をいくら分割しても理論的には分割に応じて単価が下がるのでそれ自体では株主にとっては得も損もないはずなのだが、株式市場というものは不思議なもので理論通りには動かない。

今までの例を見ると大体株価は上昇している。
こうした、市場の癖を見抜いて大きな資金を調達してはこの資金力で合法的に有力な会社を手中に収めていくというやり方は欧米では当たり前のことであるが、日本ではまだまだ珍しい。

事件は四日前に起こった。
平成17年2月8日の朝、ライブドアは、ニッポン放送の株式を35%取得して筆頭株主になったことを突然発表するのである。

35%という数字は過半数ではないので完全に会社を掌握したこにはならないが、国連におけるアメリカの立場のように重大議決を拒否する権利が生ずるのだ。
ニッポン放送の側から見れば、内堀も外堀も埋められ、本丸の前に大きな大砲を据え付けられたような形になったのだ。

しかし、ニッポン放送はラジオ局である。
まあ失礼ながら、現在のマスメディアの世界ではラジオというのは、化石に近い存在である。

このラジオ局を乗っ取ったところで何のメリットがあるというのか。
実は、これには大きなからくりが存在するのだ。

ニッポン放送というこの小さなラジオ局は実はあの巨大なフジテレビの筆頭株主なのだ。
つまり、ニッポン放送を手中に収めればフジテレビをコントロールできるという構造になっているのだ。

フジテレビは前からこのイビツな構造(子が親を支配する)は自覚しており、この危険な状況を避けるためニッポン放送を自分の手中に収めようと行動は取っていた。
その行動は株式の公開買付という、合法的な乗っ取りの手段だ。

「この会社をオレのものにしたいから株持ってる奴は皆オレに売ってくれ〜、この(高い)値段で買うよ〜」と宣言していたのだ。
それが先月の17日のことだ。

当然、ニッポン放送の株はうなぎ登りで上昇していく。
膨大な資金を用意してことに望んだフジテレビであったが、なかなか思うようには株は集めることができなかった。(恐らくフジテレビは全株式の12%程度の保有)

多くの投資家や投資会社は、もっと値上がりすることを見込んで売り惜しみするからだ。
それが何としたことか、二日前に突然ライブドアという会社が「オレ、35%の株式入手シタヨー」と名乗りをあげたのだ。

ゆっくり行軍していた今川義元の軍勢の中にいきなり登場した桶狭間の織田信長のようなものだ。
彼は何と、わずか30分で市場でこの株数を入手したのだ。

堀江社長の意図は明白だ。
彼は記者会見で、ニッポン放送というべきところでフジテレビと言い間違いをしたからだ。

あわてて訂正していたが、そのあわてぶりが余計本音を浮き彫りにする。
最初からターゲットはフジテレビだったのだ。

何という男だ。
自分がオーナーであるライブドアの一年間の利益(数10億円)の10倍の資金を30分で使い果たしてこのような大勝負にでた堀江という男。

彼は、その日のうちにフジテレビに業務提携を持ちかける。
黒船を背景に条約締結を迫るペリーのような振る舞いだ。

しかもそのスピードに驚かされる。
しかし、フジテレビも黙ってこれを受け入れるはずもない。

恐らく緊急御前会議が召集されたに違いない。
二日後の2月10日、フジテレビは、思ってもいない防衛策を講じた。

それは、法律の専門家で練りに練った作戦だった。
内容は、公開買付の条件の切り下げというものだ。

当初フジテレビは過半数の株を取得してニッポン放送を手中(子会社化)にしようとしていたのだが、株数の目標値を25%に切り下げしかも期間を大幅に延長するといった内容だ。
当初私はこの意味がわからなかった。

フジテレビが白旗をあげたのかなとも思った。
しかし、やがてニュースなどで商法の専門家の解説を聞いてなるほどと思った。

商法によると、互いに株を持ち合っている会社では一方の株式の25%以上を持っていると、その会社の議決権が無効になるというのだ。
つまり、フジテレビがニッポン放送の株式の25%を確保すればライブドアの支配から免れることができるというわけだ。

現代の喧嘩は法律に詳しくないと勝てない。
ただ、これだけでは私はフジテレビに勝ち目はないような気がする。

私がライブドアの社長であれば、ニッポン放送を手中にすれば間髪を入れず増資を実行し、株式の総数を増やすであろう。
そうすれば分母が増えるのであるからフジテレビの持分である株式は結果的に希薄化して25%を割ることになる。(フジテレビはニッポン放送の上場廃止という禁じ手までちらつかせているので簡単ではないが)

問題はこの先ニッポン放送の株式を取得するだけの資金が続くかどうかにかかるわけだが。
ライブドアは資金調達に面白い手段を使っている。

普通なら増資をしたり(株主を募って資金を集める)金融機関から借金をして資金を調達するのであるが、ちょっと変わった社債を発行することで莫大な資金を調達している。
これはMSCBと呼ばれる予約件付きの社債だ。

詳しい話をすると長くなるので要点だけを言えば、ライブドアの株が値上がりしさえすれば、金利も発生せず、引き受け先も株主も全てが得をするという美味い仕組みだ。
しかし、裏返せば株が値下がりすれば、負のスパイラルに入る懸念があり特に株主は大損するという仕組みである。

つまり、この喧嘩はライブドアが勝つという筋道が立てば関係者(ライブドア側)は皆ハッピーになれるが、負けそうだという旗色になれば極めて苦しい展開になるという構造を持っている。
ニッポン放送の株主がどちらににつくかということが今後の勝敗の行方に大きく影響する。

また、一旦ライブドア有利という風評がたつと、ライブドアの株式は騰がるので、資金面での選択肢が大幅に増えますますライブドアが有利な展開になる。
現在は、関が原決戦の前日のような状況で、東軍につくか西軍につくか多くの投資家が注視している状況だろう。

喧嘩で言えば、互いに一発づつパンチを繰り出した状態なので、お互い出血なくしてもとには戻せない。
宣戦布告をした後は勝つしか道はないのである。

喧嘩は子供の喧嘩でも大人の喧嘩でもあるいはこうした経済戦争でも原理は同じである。
弱いと相手に思われた時点で勝敗は決してしまう。

弱いと思われないための一番の方法は実際に強ければ一番良いのであるが、力が拮抗している場合は、気力、精神力と呼ばれる要素の重要性が増してくる。
関が原の戦いでも、大半の優柔不断な大名はどちらが勝つかという値踏みで悩んでいるのである。

戦う前の判断では強いというのは多分強いだろうという予想であり強そうに見えるという仮定の世界でしかない。
さて今回のこの喧嘩どちらが強そうに見えるかな。

フジテレビとライブドア。
来週の月曜日ガチンコのだ第一ラウンドがはじまる。

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