巌流島全日本武術選手権に出場

2018/09/17

2018年9月17日、東京ディズニーランドの隣にある舞浜アンフィシアターで巌流島全日本武術選手権が行われた。
私は私の主催する空手道場、現代空手道研究会から出場するNitoKengo三段のセコンドとして参加した。

この大会の趣旨やルールには当初から関心があった。
もともと一定のルールの中で勝敗を争うスポーツとしての空手、格闘技に私は昔から疑問を持っていた。

武道はいついかなる時にどんな敵に対しても対処できなければ意味がないからである。
実戦にルールはない。

現代空手道研究会はもともとそういった武道の本質を追求するといった趣旨がある。
一方普通の社会人が通常の社会生活に支障をきたさない範囲で最高の効率で最強を目指すという欲張った目標も掲げている。

そうした中、最低限のルールであらゆる武道の中から最強の者を選ぶという単純かつ根源的な趣旨で開催される巌流島というイベントのオファーを会員のNitoKengo三段が受けた。

本人から参加についての許可を打診された時、2つの気持ちがぶつかった。
一つは現空研空手の威力を実際に試せる最高の場が得られるという喜び。

もう一つは一流のプロ格闘家達が自分の将来も掛けて命がけで立ち向かって来る場に、ビジネスマンとして家庭も持っているアマチュアの会員を立たせて良いものだろうかという迷いだ。

私はこの両方の気持ちを正直にNitoKengo三段に告げ、最後は本人の意思に委ねた。
彼は熟考した後に参加の意思を私に告げた。

そして、私にセコンドに付いて欲しいと頼まれた。
今まで現空研の会員が他流派の試合やキックボクシングの試合に出ることはあったが、私が直接コートやリングサイドでセコンドあるいは監督として随伴したことはない。

しかし、今回は私は快諾した。
そして、私が何らかの状況で試合続行を止めた方が良いと判断した時は、すぐタオルを投げ入れて中止させるぞと念を押した。(これには落ちがある)

そして彼には、ある必殺の秘伝を授けた。
通常の稽古では危険で使えない技だが、巌流島のルール上は問題ないと判断したのである。

トーナメント表を見た時は誰と当たっても強敵揃いだなと思った。
私は皆の意見とは違って最初の草MAX選手が一番の関門になると思っていた。

我がNitoKengo三段も戦う相手から見れば殆ど情報の無い点では不気味な存在だったと思う。
同じように草MAX選手もパンクラシストという情報しか私は知らない。

パンクラスといえばレスリングを母体とした総合格闘技という程度の知識しか私にはない。
当然組技主体としたグランド勝負が得意な選手だと思った。

現空研は絞め技や関節技も独自の体系を持っているし門外不出の秘伝もある。
しかし普段の稽古は突き蹴りが主体である。

できれば相手の土俵に乗らず、一撃のパンチで沈めてくれれば良いと思っていた。
しかし勝負はやってみなければわからない。

こちらの土俵に引き込めなかった場合の展開が読めなかった。
しかし試合が始まると、展開は思ったものとは全く違っていた。

草MAX選手はパンチとキックを主体に攻めてきた。
これは恐らく空手衣を掴んでグランドに引っ張り込むのではないかと思っていた我々にとって願ってもない展開だった。

NitoKengo三段の上段突き、前蹴りは効果があり相手の前進力を止めた。

相手の膝蹴りに合わせて場外へ押し出したNitoKengo三段に対し私は、「そのまま行け」と指示を出した。
後は道場での稽古と大差ない展開となり、結果的には三度の押出で勝敗は決まった。

途中こちら側のローブローがあり注意減点をもらったが草MAX選手には申し訳なかった。
勝負は簡単に終わったように見えるが、これはたまたまこの押し出しルールをこちら側が上手く使えた事による。

草MAX選手はパンクラシストと聞いていたが、回し蹴りは見た目より重く、やはり強敵であった。

2回戦はムエタイのクンタック選手である。
この試合は最も楽しみにしていた。

相手はムエタイだから当然突き、蹴りの応酬になるはずである。
私はクンタック選手は彼の1回戦と同じようにキック独特の顔面をガードした構えで必ず来るから、そのガードの上から委細構わずロングフックでの突きを入れろと指示した。
素手(拳サポ)の殴り合いは我々は慣れている。
グラブを付けた戦いとは全くテクニックは異なるのだ。

開始早々これは見事に決まった。
右、左と出したパンチは全て入り、クンタック選手がクリンチにきた所をそのまま場外に押し出し、ここで有効を取った。
結果論だがこれが仇となった。

次の開始早々クンタック選手は前蹴りを放ってきたが、NitoKengo三段は待ってましたとばかり右のロングフックで返す。
その後、Nitoが左のロングフックを狙うタイミングでクンタック選手は右をクロスカウンター気味に放ちこれがクリーンヒットしダウンを取られる。

総合格闘技の選手であれば、ここで組み付いてきてマウントを狙うのであろうが、クンタック選手はその手の攻撃には慣れていないのか一瞬の躊躇の後、上から慣れない角度でパンチを振り下ろす。

後から聞いたのだがNitoKengo三段はダメージの回復を狙って場外にわざと転落し時間稼ぎをしたと言う。
彼の弟は元キックボクサーであるが、NitoKengo三段が意外に直ぐ立ち上がったので観客席から「もっと休め」と大声を出したそうだ。しかし声は届かず彼は直ぐに壇上に上がった。
本当は10秒位のカウントが欲しい場面であったが試合はすぐ続行された。
私は「脱力」と叫んだ。

2回めはまだダメージが回復してない状況で相手は同じ右フックを狙い撃ちしこれで再度ダウンを取られ、ここでレフリーストップ。
結果論であるが敗因は最初にいきなりこちらのパンチが入り、相手が簡単に場外に出たので、これで行けると思い、勝ちを急いで距離を詰めすぎた事にある。
最初のクリーンヒットがなければ彼もいつもの距離を保ち、もう少し長い試合になっていたはずである。
クンタック選手は強く、優秀な選手であるが、もう一度やれば結果はわからない。
何れにせよ私も含めてNitoKengo三段は良い経験をさせてもらった。

今回はプロレスラーの奥田選手が優勝した。
彼の勝ち方(押出し)に批判する人もいるが、彼はこの試合のルールに則って戦ったわけであり、立派な勝者である。
もしルールが違っていたら彼はそれにそった戦いをやるであろうし恐らくいくつも引き出しを持っていると感じた。

ウイッキー選手も強かった。
実は、私はNitoKengo三段とウイッキー選手との試合を最も見たかった。
彼の変幻自在な身体能力はとても魅力がある。
彼に現空研空手の秘伝をかけて、彼がどのように対処するか見てみたかった。

左禅丸選手も良さを見られないままで残念だった。
原翔太選手、岩崎選手、中島選手らも素晴らしいと思った。

今回多くの試合が「押し出し」で決まり、それに多くの不満や批判があるようだが、私は基本的にこのルールには納得している。
戦いというのはいろんなシッチュエーションがあり、整備されたコートやリング、畳の上だけで勝負をするものではない。

例えば崖っぷちや建物の屋上での戦いであれば、押し出されれば命を落とすかもしれない。
大勢に囲まれた時は突進して逃げ場を作れる能力は重要である。

問題は競技として成り立たせるためのルールとしてどうするかという問題だと思う。
恐らく主催者側はルールの細かい検討は続けていると思う。

もし私だったら「押出し」は有効ポイントとし、最後の判定には影響するが、ポイントをいくつ取っても一本にはならない、とするだろ。

現代空手道研究会の試合ルールと同じだ。
現空研空手道大会のルールは、一本、技あり、有効の三種類で組み立てられている。

通常の寸止めの顔面突きなどは全て有効であり、有効をいくつ重ねても一本にはならない。
判定の時のポイントとなるだけである。

実戦と同じように相手に致命傷を与えるような攻撃でなければ技有、一本にならない。
そうした状況で安全性を担保するため防具を着用している。

こうすればポイントでどれだけ劣勢であってもダウンによる一本で逆転できる。
試合はもっとアグレッシブで面白いものになると思う。

最後に菊野克紀選手と平直行選手の特別試合は面白かった。
模範試合の色彩が濃いものであったが、それはいたずらに勝ちだけにこだわった試合ではない、という程度でお互い効かす突き蹴りの応酬であり、両者ともインタピューでの荒い息遣いからもそれが伺える見ごたえのある試合であった。

谷川プロデューサーからは「秘伝楽しみにしています」と言われたが、お見せする機会がなく残念であった。


※最後にタオルの件の落ち
いつでも「タオルを投げるぞ」と言っていたのだが、Nito選手、セコンド陣と最後の打ち合わせをしていた時、そう言えばタオルは?という一言で「あっ!」となった。
タオルを持ってくるのを忘れていたのだ。
という事でタオルの無い状況で試合は始まった。

 

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